top of page

ホンモノの味

  • しょうえつ
  • 4 日前
  • 読了時間: 6分

先日、大磯にある「こごし自然農園」で、思いがけないいただきものがありました。


農園の道路を隔てた真向かいの畑を運営管理されている、大磯在住の下川さんから、ご自身が摘んでくださったブルーベリーをいただいたのです。



これが、実に美味しい!


口に入れた瞬間、甘さと酸味の絶妙なバランスがふわっと広がる。そして、瑞々しさが口いっぱいに満ちてくる。


しかも無農薬。


「これはありがたいなあ」「これが本来のブルーベリーの味なんだなあ」

そんなことを思いながら、しみじみ味わいました。



ところが、そのあとです。


自分へのちょっとしたご褒美のつもりで、ファミリーレストランでもトロピカル風の雰囲気のあるお店に行ってきました。


メニューを見ると、期間限定の「フレッシュブルーベリーの〇〇パンケーキ」が目に飛び込んできました。


スタッフさんによると、この特別メニューももうすぐ終わるとのこと。

「それなら、ぜひ食べておこう」

そう思って注文しました。


さぞかし美味しいブルーベリーだろう。前日いただいた下川さんのブルーベリーと、どんな違いがあるだろう。


そんな期待もありました。


ところが、ひと口食べてみて驚きました。



味も素っ気もない。


そこにあるのは、確かにブルーベリーの形をしたものです。けれど、私の舌には、あの瑞々しい甘酸っぱさが感じられませんでした。


いやあ、これには参りました。

もちろん、レストランの料理が悪いと言いたいわけではありません。大量に仕入れ、一定の品質を保ち、全国で提供するという大変さもあるでしょう。


しかし、舌は正直です。


前日にいただいた、あのホンモノの味を、私の舌はちゃんと覚えていたのです。


これほどまでに違いがあると、目の前のパンケーキの上にのっているブルーベリーが、少し滑稽にさえ思えてしまいました。



人間の感覚というものは、実によくできています。


味覚もそうです。視覚もそうです。触覚もそうです。


私たちは普段、当たり前のように見たり、食べたり、触れたりしていますが、その中で知らず知らずのうちに「違い」を感じ取っているのです。


ここで、ふと私の手づくりてい鍼のことを思い出しました。

以前、「手づくりてい鍼製作体験会」というテーマでブログを書いたことがありますので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。


てい鍼を作る時、材料となる丸棒をボール盤のチャックに固定し、ヤスリで削り上げていきます。


ところが、この時に材料がわずかでもブレていると、うまく削れません。

一度、丸棒をチャックから外して、「芯出し」という作業をします。


この時にいつも思うのです。


丸棒の歪みや曲がりは、目で見てわかる。

ほんのわずかなブレなのに、視覚がちゃんと捉えるのです。



「人間の目というのは、たいしたものだなあ」


そう感心させられます。


この感覚は、もともと動物が生きていくために備えているものなのでしょう。危険を察知する。食べられるものを見分ける。異変に気づく。


人間もまた、その力を本来持っているのだと思います。



そうそう、手づくりといえば、もうひとつ思い出したことがあります。


長嶋一茂さん、高嶋ちさ子さん、石原良純さんが出演されているテレビ番組『ザワつく!金曜日』をご存じでしょうか。


その番組の中で、新潟県三条市の中小企業が手づくりしている高級なお箸が紹介されていました。


皆さん、箸の値段がいくらだと思いますか。






なんと、最高級品で8万8,000円。


箸ですよ。食器ではありません。食べるものそのものでもありません。


けれど、食べるという行為を支える、大切な道具です。


私はその価格を聞いて、正直、驚きました。しかし同時に、「わかるなあ」とも思いました。



なぜなら、私も手づくり職人の端くれだからです。


そのお箸は、世界で最も重い木のひとつとされる「リグナムバイタ」を使い、この道22年の名匠が、極限まで細く仕上げた八角箸とのことでした。


特に驚いたのは、箸先の細さです。

先端の太さが、なんと1.5ミリ。


この数字を聞いた瞬間、私はハッとしました。


以前、私がチタンてい鍼で採用していた先端の径と同じだったからです。

箸も、てい鍼も、先端が命です。


ただ細ければよいというものではありません。細くしながらも、強度を保たなければならない。手になじみ、使う人の感覚に応えなければならない。


そのためには、ただ削るだけではなく、曲面状に、なめらかに、しかも繊細に仕上げる必要があります。



番組では、いくつかのお箸を見比べ、手触りだけで本物を当てるというクイズが行われていました。


一茂さん、良純さんは別の箸を選びましたが、高嶋ちさ子さんだけが見事に最高級品を当てました。


その観察眼、感覚の鋭さには感心しました。


私はテレビを観ながら、「たぶん、これだな」と思ったものが正解でした。

一緒に観ていた知人も、少し驚いていました。


けれど、私にとっては不思議でもあり、どこか納得できる瞬間でもありました。



手づくりの世界には、分野が違っても、底に流れている共通の感覚があります。

農産物もそうです。てい鍼もそうです。箸もそうです。


ホンモノには、ホンモノの空気があります。


見た瞬間、触れた瞬間、口に入れた瞬間、どこかでわかる。

それは、理屈では説明しきれないものかもしれません。


先日いただいたブルーベリーも、まさにそうでした。

ただ甘いだけではない。ただ大きいだけでもない。形が整っていればよいわけでもない。



そこには、土の力、作り手の想い、成長に要した時間、自然との関わりが含まれている。

だからこそ、口に入れた時に、体が「これは違う」と感じるのです。


私たちは、便利な時代に生きています。

スーパーに行けば、季節を問わず何でも手に入ります。レストランに行けば、見栄えのよい料理が出てきます。インターネットを開けば、たくさんの情報があふれています。


しかし、その中で「ホンモノ」を見分ける感覚を失ってはいけないと思うのです。


舌で感じる。目で見る。手で触れる。自分の体で確かめる。


これは、自然農法にも通じる大事な姿勢です。


本に書いてあること。YouTubeで見たこと。誰かが言っていたこと。


それらを鵜呑みにするのではなく、実際に畑で試し、作物を育て、味わい、確かめていく。

そこにこそ、本当の学びがあるのではないでしょうか。


ブルーベリーは、私にそんなことを教えてくれました。


ホンモノの味は、舌に残ります。ホンモノの手仕事は、目と手に残ります。そして、ホンモノに触れた記憶は、心に残ります。


いやあ、たかがブルーベリー。されどブルーベリー。


小さな一粒から、またひとつ、大きな学びをいただきました。


 
 
 

最新記事

すべて表示
新しいMacを購入

約2年前に購入したMac君、最近スピード感がまったくなく、フラストレーションがたまる一方でした。 そこで思いっきり新しいMacを購入。 購入した機種は MacBook Air 15インチ。 これまでは、13インチのものを使用していたが、やはり大きな画面にはそれだけのメリットがある。たった2インチの違いだが、かなり大きく感じる。 これで、画面を分割してもまったく問題なさそう。 78歳になってMacに

 
 
 
78歳後期高齢者 AIに奮闘中

最近、私はAIと格闘しています。 「今さらAI?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。 しかし、私にとってAIは単なる流行の道具ではありません。 これまで培ってきた経験や知識を、次の世代へ引き継ぐための強力な相棒になりつつあります。 私はこれまで「種の勉強会」の運営を引っ張ってきました。 しかし、前回(2026年6月20日)の勉強会を一つの区切りとして、今後は後進に道を譲り、縁の下の力持ちに徹しよ

 
 
 
手づくりてい鍼製作体験会

世界に一本、自分の手で生み出す治療道具 久しぶりに、手づくりてい鍼製作体験会を行いました。 開催日は、2026年6月14日。 ブログを読まれている皆様の中には、 「えっ、自然農法の話ではなく、今度はてい鍼?」 「そもそも、てい鍼って何?」 そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。 実は私は、自然農法に取り組む一方で、鍼灸師・マッサージ師という顔も持っています。 今でも時々、整体の仕事を続けてい

 
 
 

コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加
bottom of page